映画『GHOSTBOOK おばけずかん』

PRODUCTION NOTES

企画の立ち上げ

子供が主役のファンタジー作品やアドベンチャー作品、ファミリーで楽しめるエンターテインメント大作は、海外では『E.T.』(82)、『グーニーズ』(85)、『ハリー・ポッター』シリーズ(01~11)など、ひとつの王道ジャンルとして定着している。だが、日本の実写映画では技術的にも製作費的にも子供が主役の大作は生まれづらい状況にあった。「でも、チャンスがあれば、企画として立ち上げたいという思いはずっと持っていたんです」と本作の企画・プロデュースを務める山田兼司プロデューサーは言う。「近年、アメリカで『ストレンジャー・シングス』(16~)など、80年代のカルチャーをリバイバルしたような、子供たちが主役のエンターテインメント作品が人気になっていて、日本でもいつかこういうことができればと考えていたんです」。そんな山田プロデューサーが、「おばけずかん」の存在を知ったのは今から約3年前のこと。「たまたま、当時小学低学年だった娘から、「学校でなかなか借りられない本がある」と子供たちに大人気の「おばけずかん」の存在を教えてもらって、これは映画にできるかも、と考えたんです」。
誰も見たことがない摩訶不思議な異世界を舞台に展開するエンターテインメント作品を監督するのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』(05、07、12)シリーズや『DESTINY 鎌倉ものがたり』(17)などを大ヒットさせてきた日本のVFXの第一人者、山崎貴監督。「かつて『ジュブナイル』(00)を撮った山崎監督なら、子供を主人公にした異世界ファンタジー作品に興味を持って撮っていただけるのではと思いオファーしました」と山田プロデューサー。「少年少女を主人公にした作品をまた撮りたい」と思っていたという山崎監督はオファーを快諾。監督、脚本、VFXに加え、ストーリー原案、キャラクターデザインも担当している。さらに山崎監督作品を長年プロデュースしてきた阿部秀司プロデューサーも加わり、「おばけずかん」の映画化に向けてプロジェクトが動き出した。

脚本づくり

原作の「おばけずかん」は、さまざまなおばけの特徴と日常でそのおばけと出会ってしまったときの対処法を教えてくれる、いわばおばけの取扱説明書のような内容で、全体がひとつのストーリーにはなっていない。脚本は、原作の世界観を元に山崎貴監督がオリジナルで書き下ろした。
山田プロデューサーは言う。「子供たちが異世界を冒険して、ある種の通過儀礼を経て成長を遂げる、普遍的な感動のあるお話です。山崎監督のデビュー作『ジュブナイル』を見て、こういうお話はお得意だと思ってはいたんですが、素晴らしかったです。どんな過酷な試練も子供たちなら乗り越えていけるという子供たちの力を信じる物語で、コロナ禍を経験した今だからこそ大切な希望を描くものとして皆様にお届けできればと強く思いました」。

キャスティング

山崎監督が脚本に描いた4人のキャラクターを一番魅力的に表現してくれるであろう子供たちを、芝居経験や知名度にかかわらずフラットな状態から選ぶことにし、500人以上をオーディション。4人のうち2人が本作で映画デビューとなる大抜擢となった。
4人の中でも中心的な存在で、お芝居の技術や存在感が求められる一樹役は、『万引き家族』(18)で一躍注目を集めた城桧吏に決定。城はすでに知名度もあるが、本人は無邪気で素直で、役者然としていない等身大の男の子。「知名度ではなく、城くんご本人の良さに惹かれてキャスティングしました」と山田プロデューサー。そして太一役は、早い段階で柴崎楓雅に決定。クールな佇まい、大人びた雰囲気がまさに太一そのものだった。サニー役は、オーディションの際、そのチャーミングなキャラクターで製作陣を虜にしたサニーマックレンドン。お芝居経験はなかったが本人の資質を活かしたキャラクターで、役名にも「サニー」を入れることに。一樹が想いを寄せる女の子の湊役は、本作がデビューとなる吉村文香。泣きの演技をはじめ様々な感情表現が求められる役柄だが、山田プロデューサー曰く「彼女が持つ新鮮さ、真っ直ぐさに思い切ってかけてみようと思いました」。
そして数少ない大人のキャラクター、代替教員の瑤子先生役と古本屋の謎の店主役には、製作チームの第一希望だった新垣結衣と神木隆之介が決定。「スタッフ満場一致で、このお二人にやってもらいたいと思って、祈るようにオファーして無事受けていただいた。幸せな経緯でした」と山田プロデューサーは語る。

撮影現場のエピソード

本作は2021年2月中旬、東宝スタジオでクランクイン。まずは異世界での瑤子先生宅のシーンからスタート。リハーサル期間を経て初日を迎えた子供たちも、緊張の面持ちだったが撮影が進むにつれて打ち解けていった。山崎監督は、「小学生の気持ちになって作っていました」と言うとおり、撮影期間中は子供たちと同じ目線で話し、子供たちの気持ちになって演出。空き時間には子供たち4人と監督で、海で水切りをして遊んだりも。
撮影は約2ヶ月にわたって行われたが、異世界で力を合わせてひとつの目標を成し遂げるというストーリー展開もあり、子供たちは撮影現場で共に時間を過ごす中で、役柄の関係性同様すっかり仲良くなり、友情を深めていった。ときには男の子たち3人がたわいもないことで喧嘩してしまうことも。その現場を丸く収めたのが瑤子先生=新垣だった。新垣はクランクアップの際、「みんなが笑っているとこちらも笑顔になるし、逆に暗いと心配になるし、戦っている姿を見ると頑張れって言いたくなるし、みんなは私たちにとって、とても愛おしい存在でした。本当によく頑張りました! お疲れ様でした!」とコメントしていたが、映画界という異世界にいる子供たちにとって、まさに先生のような役割も果たしていた。山田プロデューサーは言う。「ひと夏の通過儀礼というか、生涯忘れられないひと夏のドラマを描きましたが、子供たちにとってきっとそういう撮影になったんじゃないかなと。撮影の間で子供たちの成長を感じました」。
映画には、原作者・斉藤洋先生が「元気もりもり」と校門で子供たちを出迎える校長先生役で出演しているほか、『ジュブナイル』の祐介(遠藤雄弥)と岬(鈴木杏)も登場。山崎監督は言う。「『ジュブナイル』のオマージュとして、祐介と岬に夫婦役で出てもらって、一樹は二人の子供という設定にしています。『ジュブナイル』の主人公も一樹もちょっとヘタレな感じのキャラクターですが、なぜかそういうキャラクターに惹かれるみたいです」。

おばけのキャラクターの声について

本作に登場する個性的なおばけたちの声を演じる声優陣は、豪華メンバーが勢ぞろい。「そのキャラクターにとってもっとも魅力的な声の方を選んでいったら、結果的にレジェンドクラスの方々ばかりになりました」と山田プロデューサーは言う。各キャラクターの声は、他の山崎監督作品のCGキャラクターと同じようにプレスコアリング(事前録音)の形で録音し、実写パートの撮影現場ではその声が役者陣と共演。そして撮影後、声に合わせておばけたちの動きをつけている。「キャラクター造形やふるまい、表情、アニメーションの付け方など、声からもらう情報によってイメージが膨らむんです。今回に限らず、CGキャラクターを作るときはいつも声優さんたちの力に助けられています」と山崎監督は語る。
山崎監督が担当したおばけのキャラクターデザインは、どれも個性的でチャーミング。たとえば異世界の案内役である図鑑坊は監督が飼っている猫とハリネズミからイメージし、普段の姿は可愛らしいが、白い布をかぶると怖さもある二面性のあるキャラクターになっている。山彦は当初の監督案では、もっと細く怖い感じだったが、子供たちに人気だったふんどしの太っちょのおっさんキャラになるなど、周りの意見も取り入れながら、こだわりをもってひとつひとつのキャラクターが仕上げられていった。

主題歌

「ファミリー向けのファンタジー作品では、主題歌や音楽が特に大切」と考えていたと言う山田プロデューサー。「子供から大人まで楽しめる、この作品ならではの『ゴーストソング』を作ってくれるのは誰だろうと考えたときに、理想のアーティストが星野源さんでした。星野さんにしか生み出せない、子供と大人の境界を超えて支持されるポップで深い歌詞と楽曲で、 ゴーストブックの世界におきる化学反応を期待しました」。脚本が上がった時点ですぐに主題歌をオファーし、一度聞いたら忘れられない、とてもキャッチーで心に残る楽曲が誕生。製作チームはとても感謝したという。

音楽

山崎監督作品はじめ、さまざまな大作映画でたくさんの名曲を提供してきた音楽家・佐藤直紀には、「スティーブン・スピルバーグ監督にとってのジョン・ウィリアムズ的な存在として、『ゴーストブック』といえば、このメインテーマ、となる曲をぜひ作ってほしいとお願いしました」と山田プロデューサー。期待に応えた佐藤の音楽が、映画の世界観をさらに盛り立てる。

こうして完成した『ゴーストブック おばけずかん』は、「子供たちの未来を信じ、ポジティブな気持ちになれる作品になったと思います」と山田プロデューサー。「家族で観たり、友達同士で観に行ったりしていただいて、「あの夏は、『ゴーストブック おばけずかん』を見たね」と言ってもらえるような、誰かの忘れられない思い出になれば嬉しいですね」。

監督インタビュー

監督・脚本・VFX・ストーリー原案・キャラクターデザイン山崎 貴

―オファーを受けたときのお気持ちをお願いします。

東宝製作のおばけ映画といえば、『学校の怪談』シリーズが好きでしたし、子供向けのジュブナイルものということで面白そうだなとワクワクしました。デビュー作『ジュブナイル』から20数年が経ち、自分の原点ともいえる少年少女を主人公にした作品をまた撮りたいという気持ちが高まっていたところだったので、オファーをいただき嬉しかったです。

―原作のどこに惹かれましたか?

一番は、「でも大丈夫」っていう言葉ですね。それがどのおばけのエピソードにも入っているところにすごく惹かれましたし、素敵だなと思いました。あとは、原作を読むと、子供が考えたようなユニークなお話やおばけがたくさん出てきて、自分の気持ちを子供時代にぐっと連れて行ってくれた感覚があって、それも原作の好きなところでした。

―子供たちが願いを叶えるため、先生と共に異世界でさまざまなおばけたち相手に大冒険を繰り広げるというオリジナルストーリーは、どう構築されたのですか?

到底クリアできないような困難を、子供たちが知恵と勇気と偶然と、さらに運も使って乗り越えて何かを掴む話にしたいと思っていました。原作には魅力的なおばけたちがいっぱい出てくるので、その中からどれにお出ましいただくか。オリジナルおばけも含め、物語の中でできるだけいろんなおばけが出てくるように考えました。あとは原作の「でも大丈夫」という言葉をどう活かしていくか。それが脚本づくりのうえで大きな課題というか、目標でしたね。

―子供たちは500人以上オーディションして選んだそうですが決め手は?

一番大事にしたのはバランスです。それぞれに個性があり、4人が揃ったときにチームとして魅力的に見える組み合わせを考えました。たとえば城くんを中心にするとしたらどういうメンバーが一番チームとして魅力的に見えるのかを、すごく考えてキャスティングしました。現場では、湊役の吉村さんに対しては少し照れ臭い感じもありましたが、みんな仲良しでしたね。男の子たちは喧嘩して泣いたりもしていましたけど、撮影以外も一緒に行動して自分たちの世界を作っていて、見ていて微笑ましかったです。

―新垣結衣さんとは『BALLAD 名もなき恋のうた』(09)以来のお仕事になりましたが、いかがでしたか?

演技上手な方たちといくつかすごい仕事をしてこられて、コメディエンヌとしての能力がものすごく鍛えられていた感じがしました。とても聡明な方なので吸収力がすごいのだと思いますが、間の取り方も芝居の受け方も絶妙で。現場で、新垣さんが瑤子先生じゃなかったらどうなってしまったんだろうと思ってぞっとするくらいものすごく助けてもらいました。彼女の作る空気感の中に子供たちが入って、彼女が作ってくれるリズム、テンポ感の中で物語が進んでいく形だったので、新垣さんに瑤子先生役をやってもらえて本当に助かりました。

―ほぼ全編に渡って異世界の話ですが、異世界を作り上げるうえでこだわった点は?

ぱっと見は現実世界での普通の暮らしだけど、よく見ると全然違うという、現実世界に似た異世界を作るのは大変でした。最初の方に作っていたものは、いろんな人に見せて感想を聞いたら、違和感がわずか過ぎて気づかなかったと言われることが多くて。それでどんどん作りこみがエスカレートしていきました(笑)。山が四角いサイコロ状になっていたり、街の看板がエラーだらけの見たことのない字になっていたり。瑤子先生の家も冷蔵庫が斜めになっていたり、家具が変形していたりと結構いろいろなことをしています。現場スタッフも、CGスタッフも、マット画チームも本当にめちゃくちゃ大変だったんですけど、細部まで見るといろんな発見をしてもらえると思うので、そこも楽しんでいただければ嬉しいです。

―子供たちとおばけの共演はどのように撮影したのですか? 

おばけはCGキャラクターなので、何もないところを相手に演技しなければならないシーンが多かったですが、子供たちは、少し前まではごっこ遊びをしていた世代なので、それほど苦労もなく、早い段階で周りにおばけがいるようなお芝居をやってくれました。図鑑坊に関してはモックアップ(実物大の模型)を置いていたので、なんとなく感情移入がしやすかったかもしれないです。ジズリについてもCGのラフ映像を見てもらってお芝居をするという形をとっていたので、ある程度想像はできたかなと思います。

―ジズリとのクライマックスは、すごいバトルになっていました。

『ゴーストブック おばけずかん』っていうタイトルからは想像もつかない、びっくりするような壮大な戦いになっています(笑)。でも、やっていることは、肉弾戦で勝てない相手に対し、倒すわけでもなく、図鑑を押し付けて中に入ってもらうだけの戦いなので、ギリギリ子供たちでもなんとかなるかなというラインを狙って作りました。

―改めて本作の撮影を振り返っていかがでしたか?

お芝居経験のある城くんと柴崎くんは、今までよりももっと高度なことというか、頑張らなければできないお芝居を要求してちゃんとそれに応えてくれました。お芝居が初めてのサニーくんと吉村さんは、右も左もわからない状態で現場に来て、クリアしないと終わらない! という本当におばけずかんの世界に放り込まれたような状況で、一生懸命頑張ってくれました。みんなの一生懸命な姿を見ていて、本当にしみじみしましたね。子供と映画を作る一番いいところは、真に純粋な、打算のない一生懸命さに触れられること。映画作りにある種慣れてしまっている部分がありましたが、「そうだよ、映画を作ってるんじゃん! なんて素敵な仕事をさせてもらっているんだ」ということにもう一回気付けました。そうやって自分も初心に戻れるのが、子供たちと映画を作るときの良さ、子供たちとの映画作りの魅力の大きな部分を占めていると思います。

―作品に込めた思いをお願いします。

『ゴーストブック おばけずかん』のような作品は、親に連れて行ってもらうだけじゃなくて、子供たちが友達と誘い合って見に行く最初の映画になる可能性が少なからずあると思っているんです。自分から掴みに行く映画の一本目になる人がいるだろうから、そういう責任があるな、と。これから青春時代が始まる子たちの最初の1ページになりうる可能性があることをちゃんと自覚して、夏休みの思い出のひとつになるような作品を作りたいと思っていました。デビュー作の『ジュブナイル』においては、「あの作品を見て映画の仕事をしようと思った」とか、すごく嬉しい言葉を言ってくれる方たちがいるんです。今回のスタッフにもいましたし。そういうのを聞くとまた責任重大だなと思いますが、一方で自分たちの作った映画がこの世界の入り口になってくれているんだったらそんな幸せなことはないなと。

―将来『ゴーストブック おばけずかん』のような映画を作りたい、と思う子供たちもいるかもしれません。

誰かにそう思ってもらえれば嬉しいですし、やっぱり娯楽作品なので楽しんでもらって、そのうえで誰かの子供の頃の思い出の中に、気持ちのどこかに、居場所を作ってもらえる映画になったら本当に幸せです。それはなかなかおこがましい願いではあるんですが、自分の中にも何本かそういう作品があるので、『ゴーストブック おばけずかん』が誰かにとってのそういう存在になってくれたら嬉しいなと思います。

©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会